2025-04-11
解離性健忘とは?症状・原因・治療・記憶が戻る可能性をわかりやすく解説

解離性健忘とは、一般的な「物忘れ」では失われることのない重要な個人情報を思い出せなくなる心の病気です。「過去の出来事を思い出せない」「一定期間の記憶が抜け落ちている」と感じる場合は、解離性健忘の症状で記憶を失っているのかもしれません。
本記事では、解離性健忘の症状や原因、治療法についてわかりやすく解説します。また、解離性健忘以外の記憶障害との違いや、解離性健忘で記憶が戻る可能性についても説明しますので、物忘れが気になる方は、ぜひ最後までご覧ください。
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解離性健忘(かいりせいけんぼう)とは?
解離性健忘(かいりせいけんぼう)とは、解離症(解離性障害)の一種で、通常の物忘れでは失われないような「重要な個人情報を思い出せなくなる」心の病気です。
解離性健忘の原因には、以下のようなストレスが影響しているといわれています。
- 身体的虐待
- 性的虐待
- 戦争体験
- 自然災害
- レイプ
- 愛する人の死
- 深刻な経済問題
- 犯罪行為
- 解決できない対人関係の問題
解離性健忘は脳の障害ではなく、「心の防衛反応」として起こる記憶の喪失です。
解離性健忘の特徴
解離性健忘の特徴は、主に以下の4つです。
- 限局性健忘
- 選択的健忘
- 全般性健忘
- 解離性とん走
ここでは、解離性健忘の特徴について解説します。
1.限局性健忘
限局性健忘(Localized amnesia)は、解離性健忘の中でも最も多く見られるタイプで「特定の出来事や期間に関する記憶だけが抜け落ちる」のが特徴です。
例えば、以下のようなケースです。
- 幼少期に虐待を受けていた時期の記憶がない
- 激しい戦闘を経験した数か月の記憶が抜け落ちている
強い心的外傷やストレスと結びついた記憶だけが思い出せなくなります。
このような記憶の空白は、脳の損傷ではなく、「解離」という心の防衛反応としてあらわれるものです。限局性健忘は一度きりの場合もあれば、何度も同様の記憶障害を繰り返すこともあります。
本人は普段の生活を送れていても、特定の時期だけぽっかりと記憶が抜けているため、周囲の人が違和感を感じ、症状に気づくケースが多いのも特徴です。
2.選択的健忘
選択的健忘(selective amnesia)とは、一定期間中に起きた出来事の一部、または心的外傷(トラウマ)的な体験の一部だけを思い出せなくなる解離性健忘の一つです。
例えば、以下のようなケースが該当します。
- 激しい家庭内暴力を受けたことを覚えていても、特に辛かった場面だけが思い出せない
- 激しい戦闘をした記憶はあるが、最も激しい戦闘で多数の仲間が亡くなった数日間の記憶がない
これは、心が強いストレスやトラウマから自分を守るために記憶を遮断する心の防衛反応と考えられています。選択的健忘は、限局性健忘と同時にあらわれることもあり、記憶障害の程度や範囲は人によって異なります。
3.全般性健忘
全般性健忘(generalized amnesia)は、解離性健忘の中でもまれなタイプで、自分自身のアイデンティティ(自分が誰なのかをあらわす個人情報やこれまでの自分の言動や思考、感情を含めた経験)やこれまでの生活史全体を忘れてしまうのが特徴です。
例えば、以下のようなケースです。
- 自分の名前や年齢が思い出せない
- これまでの自分がどんな人生を送ってきたのか覚えていない
こうした状態は、性的暴行の被害者や、戦闘を経験した退役軍人、極度のストレスや葛藤を体験した人に見られ、突然発症することが多いのが特徴です。
本人にとっては強い混乱を伴い、周囲も深刻な変化に戸惑うケースが少なくありません。
4.解離性とん走
解離性とん走は、解離性健忘の一種で、自分が誰であるかという感覚(アイデンティティ)を突然失い、それまでの自分に関する記憶を失い、家庭や職場から離れて、普段の環境から姿を消してしまう点が特徴の心の病気です。極度のストレスや深刻な心理的負担が原因とされています。
解離性とん走の期間は人それぞれで、数時間から数日、時にはそれ以上続くこともあり、その間に新たな名前や身分を持ち、別の職につくこともあります。本人は混乱しながらも現実的な行動に見えるため、周囲が気づかないケースも少なくありません。
解離性健忘の原因と記憶障害以外の症状
解離性健忘は、強いストレスや心的外傷(トラウマ)によって発症すると考えられています。虐待や事故、災害、対人関係の葛藤などが原因になり得ます。
心が自分を守るために記憶を遮断することで起こるとされ、記憶を失う以外にも、以下の症状があらわれることもあります。
- 疲労感
- 脱力感
- 不眠
- 抑うつ
- 自己破壊的行動(アルコールや薬物の乱用、無謀な性行動)
- 自殺願望
特に記憶が戻った際に自殺行動に至る危険もあり、慎重な対応が必要です。
なお、解離性とん走は解離性健忘の一種ですが、記憶喪失とともに徘徊や失踪、別の人間として生活するような行動が見られます。
解離性健忘の診断
解離性健忘の診断を受けるには、精神科を受診する必要があります。精神科医は、DSM-5-TRの診断基準にもとづき、詳細な問診や必要な検査を行い、診断を行います。
診断の主なポイントは、「通常の物忘れでは失われないような重要な個人的情報を思い出せないこと」が中心であり、失われた記憶と心的外傷・強いストレスとの関連についても確認します。
また、その症状により、社会生活や仕事に支障をきたしているか否かも判断材料の一つです。
同時に、認知症、てんかん、アルコールや薬物の依存症、外傷性脳損傷など、ほかの身体的な病気や精神的な病気による症状ではないことをMRI、脳波検査、血液検査や尿検査の検査結果も踏まえて慎重に確認する必要があります。
加えて、心理検査により、解離による体験の特徴を明らかにすることも診断の一助となります。
解離性健忘とほかの種類の健忘との違い
ここでは、解離性健忘とほかの種類の健忘との違いについて、解説します。
ほかの病気による健忘の概要と特徴について、以下の表にまとめました。
病名 | 特徴 | 記憶以外の症状 | 健忘に対する本人の自覚 |
---|---|---|---|
解離性健忘 | 原因: トラウマや過度なストレスが関与 特徴: 突然記憶喪失のみが出現する日常生活への支障は少ないことが多い | ないことが多い | 気づいている |
外傷性健忘(頭部外傷) | 原因: 頭部外傷 特徴:交通事故やスポーツなど頭に衝撃を受けたあとに発症する | * 頭部のケガ * 日時や場所がわからない * 新しいことを覚えられない * 集中力低下 * 注意力散漫 * 計画を立てるのが困難 * 読み書きが難しくなる | 気づかないことが多い |
薬物性健忘(薬の副作用) | 原因: 睡眠薬や抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)の副作用 症状の特徴: * 薬の服用後に発症 * 過去の思い出や薬の服用前の出来事は思い出せる アルコール併用で日常生活へ支障をきたす可能性が高まる | なし | 気づいている |
認知症 | 原因: アルツハイマー病、血管性認知症などの病気 特徴: * 脳血管障害(脳梗塞や脳出血)などの身体疾患の既往がある人に多い * 日常生活上のエピソードから始まる | * 身体機能の低下 * 判断力の低下 * 計算能力の低下 * 短期記憶の喪失 * 注意力の低下 * 用事を忘れる * 物をなくす * (重症化すると)物盗られ妄想 * 徘徊 | 気づいていない |
病気の種類によって治療法が異なるので、自己判断ではなく、医師の診断を受けることが非常に重要です。
解離性健忘の治療
解離性健忘の治療は、主に以下の2つです。
- 支持的精神療法・カウンセリング
- 記憶想起法(催眠療法)
ここでは、解離性健忘の治療について解説します。
支持的精神療法・カウンセリング
解離性健忘は、「支持的精神療法」や「カウンセリング」による治療を行います。これらは、患者が安心して自己表現できる環境を整え、心の回復を促す心理的アプローチです。
支持的精神療法では、医師が患者の話を評価や否定をせずに受け止め、安全な関係性を築きます。記憶を取り戻すことだけでなく、想起された記憶に伴う感情や問題への向き合い方も重視されます。
カウンセリングは、主に公認心理師や臨床心理士が行う心理療法です。カウンセリングも同様に、カウンセラーが丁寧に傾聴し、信頼関係を築きながら回復を支えていきます。
解離性健忘は、過度なストレスやトラウマにより心の一部が切り離された状態のため、切り離された部分は、信頼できる関係性でしか表現されません。そのため、医師やカウンセラーは、焦らず丁寧に寄り添いながら回復を支える姿勢でサポートします。
記憶想起法(催眠療法)
解離性健忘の治療における「記憶想起法」として、催眠療法が用いられることがあります。
実際に、ある症例では2週間に1回の頻度で催眠療法を行い、17回目のセッション後に自然と失われていた記憶が戻ったと報告されています。この事例では、催眠中に記憶の核心に迫る内容に触れていたにもかかわらず、催眠を解いたあとにはその面接内容を忘れていました。
しかし、発症して間もない時期に、無理に催眠や暗示を用いて記憶を呼び起こそうとすると、逆に症状を悪化させてしまうリスクもあります。そのため、記憶想起法を用いる際は、まずご本人が安心できる安全な環境を整えることが前提となります。
焦らず、自然な回復を見守りながら、段階的に記憶の想起を促していくことが大切です。
解離性健忘では記憶が戻る可能性はある?
解離性健忘では、失われた記憶が戻る可能性はあります。
多くのケースでは、記憶は数日から数か月以内に自然に回復することがあり、特に心的外傷や強いストレスから解放されたタイミングで記憶がよみがえるといわれています。
ただし、すべてのケースで記憶が戻るわけではなく、長期間にわたって記憶が戻らないケースがあるのも事実です。特に、「解離性とん走」のように自己のアイデンティティ(同一性)を失い、「自分が誰なのかわからない」状態になっている場合は、記憶が長期的に失われたままとなることが多いです。
記憶が戻った際には、忘れていた出来事が一気に意識に上り、精神的ショックや苦痛を引き起こすこともあるため、慎重な対応が必要です。記憶の回復には、安全な環境と信頼できる人間関係の中で、ゆっくりと心の準備を整えることが重要だとされています。
解離性健忘かもしれないと思ったときの対処法
解離性健忘かもしれないと思ったときの対処法は、主に以下の3つです。
- 精神科の医師へ相談する
- ストレスを避けて生活習慣を見直す
- 周囲の理解を得て安心できる環境に身を置く
ここでは、解離性健忘かもしれないと思ったときの対処法について解説します。
精神科の医師へ相談する
「もしかして解離性健忘かもしれない」と感じたときは、まず精神科や心療内科を受診し、現在困っている症状について率直に相談することが大切です。解離性健忘と診断された場合は、医師の判断にもとづいて適切な治療を受けましょう。
自分を責めたり、すぐに記憶を思い出す治療を受けたりする必要はありません。治療の基本は、心理的に安全な環境で自己表現を促すことであり、強いストレスを避けることが重要です。
また、アルコールや薬の乱用など自己破壊的な行動も症状の一つなので、すぐに医師やカウンセラーに相談しましょう。
ストレスを避けて生活習慣を見直す
解離性健忘が疑われる場合は、ストレスを受け続けると症状悪化の可能性があるため、強いストレスを避け、日常的なストレスに適切に対処することが大切です。
また、栄養バランスの良い食事や十分な睡眠は、ストレスへの抵抗力を高める助けになります。特に、青魚に多く含まれるDHAや各種ビタミンは、脳の働きをサポートする効果が期待できるため、意識して摂取するとよいでしょう。忙しい方は、サプリメントを活用するのも一つの方法です。
さらに、アルコールや薬の乱用は避け、心と身体をいたわる生活を心がけることが大切です。
周囲の理解を得て安心できる環境に身を置く
解離性健忘かもしれないと感じたときは、まず医師の診断を受け、安心できる環境に身を置き、適切な治療を受けることが大切です。
解離性健忘は、強いストレスや心の傷が原因で記憶が一時的に失われる心の病気でなので、強いストレスを避け、本人が安心できるよう、家族や周囲の理解と見守る姿勢が欠かせません。
周囲の人は、記憶がないことを責めたり、無理に思い出させようとしたりせずに、症状の一つとして受け入れ、自然な回復を待つことが重要です。
また、自己破壊的な行動や自殺行為などがないか観察し、そのような行動がある場合は、速やかに医師へ相談しましょう。
解離性健忘かなと思ったら病院を受診しよう
「もしかして解離性健忘かも」と感じたら、まずは安心できる環境を整え、精神科や心療内科を受診して、専門医の診断を受けましょう。ストレスを避け、焦らずに適切な治療を受けることが、回復への第一歩となります。
栄養バランスの偏った食事や睡眠不足は、ストレスへの抵抗力を低下させるおそれがあるため、生活習慣を見直して心身を整えることが大切です。とはいえ、「栄養バランスの良い食事を続けるのは大変」と感じる方は、サプリメントを取り入れるのも一つの方法です。
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適切な治療を受け、十分な睡眠と必要な栄養素をしっかり摂りながら、ゆったりとした気持ちで回復を目指しましょう。
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