COLUMN

#鉄分
1

葉酸以外に必要な栄養素「鉄分」

鉄はどんな栄養? 鉄とは、血液の主成分である赤血球に含まれる赤色素タンパク質「ヘモグロビン」の構成に必要なミネラルの一種です。「鉄(ヘム)」と「タンパク質(グロビン)」が結合したものなので、ヘモグロビンという名前がつけられました。そもそも赤血球の働きとは、赤血球に含まれるヘモグロビンが酸素分子と結びつき、体中に新鮮な酸素を運ぶことです。そのため、体内の鉄分が不足するとヘモグロビンの数が減り、体中に十分な酸素を運ぶことができません。この状態を「鉄欠乏性貧血」といいます。鉄欠乏性貧血になると、運動機能や認知機能の低下、食欲不振などを招くことがあるため、どの人も適切な量の鉄を摂取する必要があるでしょう。必要な鉄分量は性別や妊娠・授乳の有無、月経の有無などの条件によって異なります。特に妊娠中は、母体の血液量が増加したり、胎児の成長にも鉄分が必要だったりと、妊娠前より多くの鉄が必要です。鉄分は体内で生成することができないので、日々の食事で積極的に補いましょう。人間は体重60kgの男性で約3g、体重50kgの女性で約2.5gの鉄を体の中に持っており、そのうち約66.7%はヘモグロビンに、10%は筋肉(ミオグロビン)に、残りは肝臓、脾臓、骨髄、腸にそれぞれ蓄積されています。このように、鉄は人間の体にとって重要な栄養素なので、すぐに取り出せるように貯蔵されていたり、再利用されたりするのです。しかし、成人男性で1日1mg程度の鉄が尿や便から排出されてしまうため、鉄の摂取が行われないと貯蔵された鉄を使うことになり、貯蔵された鉄が少なくなると貧血を起こす可能性があります。そのため、毎日食べ物から鉄分を摂取することが望ましいのです。しかし、食事で10gの鉄を摂取しても、吸収されるのはその1割程度なので、毎日の食事だけで適量の鉄を摂取することはなかなか難しいといわれています。鉄の役割は?鉄の最も有名な役割のひとつに、“赤血球内のヘモグロビンを構成すること”があります。私たちは絶えず呼吸を行って「酸素」を体の中に取り込み、その酸素が生きていくためのエネルギーをたくさん作り出すことで、日々活動ができています。酸素を体の隅々まで運んでくれるのが、血液の主成分である赤血球です。赤血球は酸素を運ぶトラックにたとえることができ、ヘモグロビンは酸素が座る座席とすることができます。ヘモグロビンは鉄とタンパク質から成り立っているので、もし鉄が不足してしまうと、ヘモグロビンの量が減ってしまい、酸素を効率良く配達することができなくなるのです。また、鉄は骨格筋や心筋で酸素の配達および貯蔵をしている「ミオグロビン」というタンパク質や、エネルギーを効率的に生み出す「チトクローム(シトクローム)」という酵素の一部としても役立っています。このように、鉄は生命を維持するために不可欠なエネルギーの生成や子どもの発育に大きく関わっているのです。鉄はいつ必要?エネルギー生成に必要な酸素の運搬に一役買う鉄分は、老若男女問わず必要な鉄ですが、妊娠中期~後期の女性にとって特に大切な栄養素です。その理由は2つあります。1. 妊娠中の女性は血液量が増えるから2.母体から胎児へ鉄を供給する必要があるから妊娠5カ月~7カ月(16週~27週)を「妊娠中期」、8カ月~10カ月(28週~39週)を「妊娠後期」といい、お腹の中で赤ちゃんがどんどん大きくなってくる時期です。妊娠中の女性は、血液量が増加し、28週〜36週頃には妊娠前の1.5倍の血液量になっているといわれています。血液量の増加に伴い、赤血球も増やす必要があるため、妊娠していないときよりも多くの鉄が必要になるのです。また、妊娠後期には、赤ちゃんの成長に鉄が必要だったり、母体の臍帯と胎盤に鉄を貯蔵したりと、赤ちゃんが元気に育つためにも鉄は使われます。そのため、妊娠初期に比べて妊娠中期~後期では2倍以上の鉄が必要になるのです。鉄はどれぐらい摂取すればいいの? 日本人の食事摂取基準(2020年版)より作成厚生労働省が発表している鉄の食事摂取基準の推奨目安は、30代の女性(妊娠なし・月経あり)の場合、1日10.5mgになっています。妊娠初期は少なめの9mgですが、これは妊娠中は月経が止まり、赤ちゃんもまだ小さく多くの鉄を必要としないためです。そして、妊娠中期〜後期は、必要な量が16mgまで増加しています。しかし、30代女性の食事摂取による平均鉄摂取量は6.8mgと発表されており、必要摂取量を大きく下回っているのが現状です。また、妊婦でも16mg必要な鉄が、実際は6.3mgしか摂取できていないという結果に。妊娠中に鉄分が不足すると、母体や胎児の死亡リスクや早産、体出生体重児が生まれるリスクが上昇すると発表されています。鉄は体内で作ることができず、食べ物から摂取することしかできないため、積極的に鉄分を含む食べ物を食べておきたいですね。ただ、鉄分は体内吸収率があまり良くないため、鉄分を含むサプリメントでの摂取も検討してみると良いでしょう。鉄の種類(ヘム鉄と非ヘム鉄の違い)鉄には、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、「ヘム鉄」は動物性食品(牛や豚、鶏、魚など)に、「非ヘム鉄」は植物性食品(ほうれん草や小松菜、プルーンなど)に、それぞれ含まれています。この2種類は、体内での吸収率が大きく異なり、「ヘム鉄」の吸収率は10~20%、「非ヘム鉄」は2~5%です。「じゃあ、ヘム鉄だけ摂ったらいいの?」と思われるかもしれませんが、2種類の鉄分の違いを理解し、どちらの鉄分もバランス良く摂るようにしましょう。ヘム鉄鉄とポルフィリン環により形成される「ヘム鉄」。ヘム鉄はもともとタンパク質にくるまれて吸収されやすい形になっているので、比較的吸収されやすいのが特徴です。動物性食品はヘム鉄を多く含み、そのなかでもレバーや赤身肉など、濃い色の肉には比較的鉄が多く含まれています。また、赤身の魚や、あさりの水煮などの貝類にも、鉄が多く含まれているので、いろんな食べ物から摂取したいですね。【ヘム鉄が多く含まれる食品】・豚レバー ・鶏レバー ・牛レバー ・牛ヒレ肉 ・カツオ ・マイワシ ・鶏卵 ・あさり ・カキ  など非ヘム鉄非ヘム鉄の吸収率は、ヘム鉄と比べると低いのが特徴です。しかし、ビタミンCや動物性タンパク質、クエン酸といっしょに摂ると、吸収率がアップするという研究結果がでています。摂り方を工夫することで、効率良く鉄分を摂取しましょう。非ヘム鉄が多く含まれている食べ物は、野菜のほかにも日本食でよく食べられている豆類や海藻類があります。【非ヘム鉄が多く含まれる食品】・小松菜 ・ほうれん草 ・枝豆・そら豆 ・乾燥ひじき ・豆乳 ・厚揚げ など鉄分を効率良く摂取するには?非ヘム鉄でも少しお話しましたが、鉄分の吸収率をアップさせるためには、鉄分の吸収を助ける食べ物といっしょに食べることと、吸収を妨げる食べ物をいっしょに食べないことの2つが大切です。鉄分と一緒に、牛乳などに含まれるタンパク質「CPP(カゼインホスホペプタイド)」をいっしょに摂ると、タンパク質が鉄と結びつき、腸での吸収を促進させる効果が期待できます。また、野菜や果物に多く含まれるビタミンCには、還元作用で鉄を吸収されやすい状態に変える効果があり、クエン酸などの果実酸もまた、「キレート作用」という、鉄分などのミネラルを包み込んで吸収しやすくしてくれる効果があります。一方、紅茶、コーヒー、緑茶などに含まれる「タンニン」、ライ麦や玄米に含まれる「フィチン酸」、イモ類やきのこ類などに含まれる「非水溶性食物繊維」は、非ヘム鉄の吸収を妨げるといわれています。(ヘム鉄の場合は気にしなくてよいという意見もあります。)可能であれば、メニューを工夫して効率的な鉄分摂取ができるのが望ましいでしょう。鉄が不足すると・・・妊娠中はもちろん、妊活期、産後など、どのステージでも大切になってくる「鉄」。妊娠期には鉄の基本的損失に加え、胎児の成長に伴う鉄の貯蔵や赤血球量の増加による鉄需要が高まり、鉄の必要量が増加します。鉄分の不足は、「原因はよくわからないが、なんとなく体調が悪い」という不定愁訴(ふていしゅうそ)と深く関係しています。また、妊娠中や産後での鉄不足は、早産や出産後の発育などに影響が出る危険性が高まり、産後うつにも深く関わりがあるといわれています。鉄が不足することで赤血球のヘモグロビンの数が減少し、酸素が十分に運べなくなるとなるのが「鉄欠乏性貧血」です。鉄欠乏性貧血では、以下の症状が挙げられます。・動悸・めまい・肩こり・頭痛・肌のかさつき・口内炎や口角炎・抜け毛や枝毛 などまた、精神発達にとっても重要な栄養素なので、以下のような症状も出ます。・注意力の低下、イライラ感・食欲不振・抑うつ感当てはまる症状はありませんか?食材に含まれる、非ヘム鉄とヘム鉄の特性を理解していても「調理するのがなかなか難しい」という方もきっと多いでしょう。きちんと摂取しているつもりでも、実はうまく吸収できずに不足していることもあるため注意が必要です。特に妊娠中に貧血を引き起こすと、お腹の中の赤ちゃんに影響がでることがあるので、健康な身体を維持できるよう心がけましょう。貧血が起きると・・・先ほどもお伝えした通り、妊娠中は多くの鉄が必要となり、想像以上に鉄が消費されています。体内の鉄は、摂取してもすぐには増えない仕組みになっていて、体内の鉄を増やすために数ヶ月〜1年もかかります。そのため、妊娠前と妊娠初期〜後期の鉄欠乏の予防はとても重要です。鉄が不足すると、貧血になりますが、初めは無症状の人も多く、気がつきにくいかもしれません。鉄欠乏が進んでいくと、動機やめまい、息切れ、頭痛、倦怠感などの自己症状が表れ、重度の貧血になると「妊娠高血圧症候群」へのリスクが高まり、「分娩時の出欠量の増加」や「産後の回復が遅くなる」、「母乳の出が悪くなる」などの症状がでる可能性があります。また、胎児の発達や早産のリスクも高まるでしょう。出産では母体から多くの血液が失われるため、貧血はさらに悪化することが予想されます。その結果、産後うつを発症する可能性もあるのです。鉄不足は母体だけでなく、子どもへの影響も大きくなります。通常、赤ちゃんは生後~6カ月までで使う鉄分を貯蔵して生まれてきますが、母体の鉄が不足していると、生まれてきた赤ちゃんに貯蔵されている鉄が少ない可能性もあるのです。出産後の「乳児期」は、一生の中で最も細胞が増える時期といわれており、脳神経はこの時期に形成されていきます。神経細胞形成には鉄が不可欠で、この時期に鉄などの栄養素不足で神経細胞がうまく形成されないと、認知発達障害や行動発達障害が残る可能性があると考えられています。ママ自身や生まれてくる赤ちゃんのためにも、鉄分を積極的に摂取できる食生活を心がけましょう。食事で鉄分を摂取しきれないときは、サプリメントでの摂取も検討してみてくださいね。まとめ妊娠中の女性と赤ちゃんにとって、特に重要な栄養素である「鉄分」。鉄分が不足すると、酸素を体中に運んでくれるヘモグロビンの数が減り、その結果引き起こるのが鉄欠乏性貧血です。妊娠中に貧血になると、動機やめまいといった日常生活に支障をきたすものから、胎児の発達遅延や早産のリスクも高まります。妊娠中は特に鉄分が必要なため、きちんと摂取しているつもりでも、気づかないうちに鉄不足になっていることも多いので注意が必要です。食事に気をつけ、サプリメントで上手く補いながら、効率的に鉄分を摂取すると良いでしょう。参考文献市立御前崎総合病院コラムe‐ヘルスネット「鉄」e‐ヘルスネット「Hb」日本人の食事摂取基準(2020年版)eJIM「鉄」東京都国民健康保険団体連合会